LOG IN

エイテウアラオト -エイテ- 第2話「目覚めし若さ」

by カウラーキー(kouraku)with新生クラヴァー&新生terataku

「……ぅ」
 青年――コウが再び目を開くと、そこは古びた一室だった。
「気が付いたか、コウ君」
「あ……おじさん」
「ボラジャでいい。俺はボラジャ・シュバインという。よろしくな、コウ君」
 ボラジャと名乗った中年男性は、ポンポンとコウの肩を叩いて笑った。

「あの、よく分からないことは置いておきますが……ここは……?」
「おぉ。アルビーの見込み通り、器が大きいな。先のことを水に流すか」
「いえ、まあ、あはは……」
 コウは半端に苦笑いした。
「ここは、俺たちの隠れ家だ」
「隠れ家……俺たち?」
「ああ。名を、“神狩りの同胞団”という」
「…………。あっ!!!」
「どうやら覚えがあるようだな、コウ君」
 コウは自身の乏しい世間常識の知識の中から、その名を聞き及んでいたことを想い出した。
「最近この国で噂の……神殺しのならず者組織……!?」
「そうだ」
 ボラジャは否定しなかった。
「え? え? でも、さっきは助けてくれて……」
「それも、そうだ」
 ボラジャは否定しなかった。
「え? え? それって、どういう――」
「まあ落ち着け、水でも飲むか?」
 またコウの肩をポンポンと叩き、まずボラジャが立ち上がった。
「あ、はい、頂きます……ちょっといろいろ、なにがどうなってるのか……」
「よろしい。普通はそうなるよな」
 ボラジャは色褪せた棚の中から、杯と水筒を取り出した。
「どうぞ」
 そのまま背もたれつきの椅子に腰を下ろし、向かいの椅子に座るようにコウを手招いた。コウはそれに従う。ボラジャはつづいて卓に杯を置いて水を注ぎ、自分に、そしてコウの前に置く。
「ど、どうも……」
「……ふう。……ん、どうした、呑まないのか」
「い、いえ……」
「? なにか気になる様子だな」
「……あ、あの」
「正直に言うといい」
「……毒とか、入ってませんよね?」
 コウがおずおずと尋ねると、ボラジャは頬を緩ませた。
「ははは、確かに敵対している相手に対してならそんな案もあるのだろうが……大丈夫だよ。安心して飲みなさい。口に合うかは分からんがね」
「はい……まあ言ってもどうしようもないんですが……では、いただきます」
 意を決して、コウは水を飲んだ。
「では……何から話そうか。何が聞きたいかな?」
「う~ん」
 コウは思案する。
 しばしの黙考の後、一言口にする。
「なんで私、襲われたんですか?」
「ははは」
「……」
 ボラジャは笑い、水を飲んでから。
「……結論から言うと、何の理由もなく単に巻き込まれただけだ。そこにいたからだよ」
「やっぱり……」
「君を襲った怪物、そして君を守った私の使い、その呼称を、知っているかな?」
「ええと……何分、数年引きこもってた上に久々に外に出たので……」
「ふむ。その様子だと、なにか事情があるようだ。だが俺の見たところ、君は頭がいいように見える。一般常識だから、きっと知っているはずだ。ゆっくり想い出してくれ」
「はい……。え~と」
 コウは思考を巡らせる。
 この星に数多いる、あのような異形の異種なる種族とともに生きる者。
「えーと、確か……“聖精と共に歩むもの(セレアパステス)”……だったっけ」
「正解だ」
「じゃああれが……聖精(セレア)? あなたがたは聖精と共に歩むもの(セレアパステス)なんですか?」
「ああ」
 ボラジャは身を前に乗り出し、コウに告げた。
「そうか……私は知らないけど、今この国が大変みたいですね。そこでいい意味でも悪い意味でも活躍してるのが、あなたがた聖精と共に歩むもの(セレアパステス)なんだとか」
「それも、その通りだ」
「この国、“混成(こんせい)の国”ゼクスの守護女神(しゅごめがみ)、“蛮女神(ばんじょしん)”アーリアの……たしか、剣であり盾であると」
「よく知っているな」
「ええ、まあ……」
 コウは畏敬の念でボラジャを見直した。
「アーリアは懐の広く深い、戦(いくさ)の女神だ。我々……どこの者とも知れぬ、さらには神を殺すことを生業としている者ですら、『それでよい』と受け容れ、育てる」
「でもさっき私が巻き込まれた状況は、まるで立場が逆だったような……ボラジャさんが捕まえてた男の人の制服って、警官、ですよね?」
「ああ」
「でも彼も聖精と共に歩むもの(セレアパステス)で……でも使っていた相方の聖精(セレア)は、何の関係もない私を襲った……」
「ああ」
「分からないのはそこなんです。なぜ他の国の多くの神さまたちに忌み嫌われるあなたがた“神狩りの同胞団”が、いくらこの混沌とした国でとはいえ民を襲撃する警官からわざわざ一庶民を守ってくれたのか」
「君は、どうやら人が良いようだな、それも重度に」
「え?」
「いやまあ、気にしないでくれ。そうだな……」
「はい」
 コウは言うべきことを言い終え、ボラジャの返答を待つべく背筋を伸ばした。
「正直に言おう。この国は、すべてを受け入れ、その上で仲良くやっていたのどかな昔よりも……文明が進化したがゆえに、アーリアの意向は一貫されているとはいえ、人間たちの未熟さと成長の遅さのせいで、あまりにすれ違いにまみれている」
「そうですね。信じたくはありませんが……そのようです」
「そこでだ」
「はい」
 コウはボラジャが次に何を言うのかと顔を窺う。
「コウ君、もしよければ“神狩りの同胞団”(うち)に来ないか?」
「……ん、まあ……。穏やかに「じゃあ元気で」とは行かなそうだな、とは、はい……ははは……分かってましたよ。ええ、分かってましたとも」
「いいね。その広さ。アーリアに近い素質があるぞ」
「う、ううん」
「で、どうかな?」
「そうですね……」
 今度はボラジャがコウの顔を窺う。
「と、とりあえず、私、無職な上に引きこもりで、加えて精神的にちょっと病気中で……か、家族に相談しないことには、なんとも。今回の散歩だって、やっとの想いで数年ぶりだったものですから……」
「いいね。まさに我々にぴったりじゃないか」
「じゃ、あの~帰ってもいい? ですか……?」
「そうだな、だが君は誠実そうだ。一つ、約束をしてくれないか」
「は、はい……」
 コウは自然に気を張る。
「今回のことは、忘れてしまっても構わない。素直に、我々の事情に巻き込んでしまってすまなかったと思っている。ただ、もし君が、女神の奇跡でか何の因果でか……その気になってくれたのであればだ」
「はい」
「アルビー」
『――オウ』
「!?」
「こいつを、受け取って、役に立ててほしい」
 ボラジャのそばの空間から先ほどコウを守った巨体のなにか――聖精(セレア)の声が響き、そこから銀河のようにうねる小さな光の門が現れ、さらにそこからボラジャへ一つの小さな石が受け渡された。
 それを受け取ったボラジャは、そのまま卓上にそれを置き、コウの前へと押し出す。
「これは……あっ、まさか……」
「察しがいいな」
「……聖精(セレア)の、? 召喚……媒体?」
「その通り」
 コウの目の前に差し出されたそれは、聖精(セレア)を喚び出すための小さな石だった。
「い、い、いいんですか?」
「ああ。先ほども言ったが、今この国は、今まで以上に混沌としている。護身用にもなるだろう。君は頭もよさそうだし、体も磨けば光る。何よりその心がいい。この石とそこから喚ばれた聖精(セレア)が、きっと道を導いてくれるだろう」
「あ、有難う御座います……何と言ったらいいのか」
「ただ大切にしてやってくれ。俺から言えるのはそれだけだ。まあ、コウ君なら何の心配もいらないだろう。だから渡したのだが」
「は、はあ……では、ありがたく、頂きます……」
「それでいい」
 コウは、ボラジャに渡された赤黒い聖精(セレア)の召喚媒体である石を受け取り、ポケットに入れた。
「君の旅路に、どうか女神たちのご加護とお導きを」
「あ……」
 ボラジャが言って指を空中に特定の形に印を切ると、コウの周囲が光り出した。
「これはまた転移の術……? 有難う御座います、ボラジャさん」
「ああ。願わくばまた会えることを」
「あ、その約束! それも約束です! またお会いしましょう! 必ず!」
「ふ、有難う。――ではまたいずれ、コウ・アオギリ」
「はい、ボラジャ――ボラジャ・シュバインさん!」
 そして、コウの体は光に消えていった。
「……ふふ。不思議な子だったな。コウ・アオギリ。あの年齢にしてあの心の有り様……これはもしかしたら、もしかするかもしれん。……いや、過度な期待は止そう」
『――コチラ事後処理ガ完了シタ。話ハ聞イテイタゾ、ぼらじゃ』
「おぉ。アルビー」
『善キ若者デアルナ』
「ああ、この混迷の時代に、よくぞ」
『我々モマダマダ、頑張レソウダ』
「コウ君にも善きパートナーが訪れんことを」
『ソレハソウト、ぼらじゃ』
「ん? どうした、アルビー」
『コウニ渡シタ召喚石カラ、禍々シイ気配を感ジ取ッタノダガ……ドコカラ手ニ入レタ』
「害はなさそうだからきっと大丈夫だよ。うちの子たちが遊んでた時に拾ったそうだ」
『宿ッタ召喚地域ノ情報ハ?』
「確か……」
『…………』
「――チキュウという星の、ジゴクと呼ばれる場所に繋がっている――と、俺は感じた」
『チキュウ……ジゴク……』
「アルビーは知ってるか?」
『イヤ……』
「俺も知らない場所だ」
『イカニコノ星ガ女神タチノ許異世界トノ交流ガ活発な星柄トハイエ……』
「言いたいことは分かるが、コウなら大丈夫だよ」
『ホウ』
「あの子には何か、今この時代に欠けているものが、見えている……そんな綺麗な眼をしていたから」
『……ソウカ』
「また会う、約束だからな」
『フフ』
 そしてボラジャは、また水を飲む。
「新しき聖精と共に歩むもの(セレアパステス)に、祝杯を」
『オウ』




カウラーキー(kouraku)with新生クラヴァー&新生terataku
OTHER SNAPS