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エイテウアラオト -エイテ- 第1話「新生せし青年」

by カウラーキー(kouraku)with新生クラヴァー&新生terataku

「はぁ~~~……」
 生気のない顔で、がっくりとぼとぼ街を歩く青年がいた。
「私、これからどうなるんだろう」
 人々の活気と笑顔に満ちる朝の大通りに、全くそぐわない憂いの面持ちでふらふらと彷徨う細身。
「人生、かぁ……」
 地面ばかりを見つめていた視線が、そっと空を仰いだ。
「神さま……」
 本日は晴天。太陽がゆっくりと昇り始めている、冬の朝。
 思わず青年は、立ったまま天に向かってその両手を合わせた。
「ただ普通に生きたい、だけなのに……」
 そのまま瞳を閉じる。
「世界には私なんていなくても……私の居場所なんて……どこにも……」
 その目から、滲むきらめきがあった。
「たださ……」
 それは頬を伝い、地面にぽたりと落ちる。
「私一人じゃないんだ……あたたかな家族がいて、これ以上ないほど恵まれてて……愛されてて……。ただどうしてもうまく社会に馴染めない……それだけなんです。神さま……」
 溢れたものは、内からも熱い感情となってこみ上げ、青年の細身を震わせる。
「ちくしょう……生きれば生きるほど、絡まって……くそ、私は……」
 祈っていた両手を離し、彼は呼吸を整える。
「……みんなのおかげで、やっと生きられてる、身なのに……私は……一体……なんのために……。……はー、はー……」
 ぐしっと服の袖で涙をぬぐい、周囲の人の視線に気づいた青年は素直に頭を下げる。
「……あ、すいません……怪しい者ではないんです。……ちょっと、独り言を……。ごめんなさい」
「お兄ちゃん、大丈夫? はい、これ。どこか痛いの?」
 買い物中と思われた婦人が彼に近寄り、そっと鞄から拭く物を取り出して青年に差し伸べた。
「あ、有難う御座います……いえ、でも、大丈夫です、すいません、お気持ちだけ……はい」
 慌てて遠慮する青年に対し、婦人は柔らかく微笑む。
「なにか悩んでるみたいだけど、大丈夫よ。あんたはまだ若い。何度だってやり直せるさ。あきらめちゃダメよ。じゃあね!」
 婦人は手を振って、その場を去って行く。
「……うぅ」
 その姿を後にして、青年の目にはまた涙が浮かぶ。
「私の関わってきた人みんな……みんな、いつも、優しいのに……良い人たちなのに……。なんで私はこうもふがいないんだ……」
 気を落とす青年に、今度は一羽の鳥が寄ってきた。
「あ……」
「くるくる、くるくる」
「ごめんよ、食べさせてあげられるものはないんだ……でも、ありがとう」
 青年の言葉を聞いても、何事でもないように彼の周りをのびのびと歩くその鳥は、ごく当然と言う風にそのまま公園の方へといつものように歩んでいく。
「あ……。公園、か」
「くるくる、くるくる」
 愛らしい鳴き声をもらしながら仲間の元へ戻ろうとするその堂々とした様に、青年はさらにすこし、感傷的になった。
「かわいい……。……というか、私より……すごい……」
 青年の足が自然と鳥を追う。

 公園は、やはり多くの人々で賑わっていた。

「くるくる、くるくる」
 青年と一緒に歩いてきた鳥が、公園に入った途端にまた喉を鳴らしながら彼の周りを周り始める。
「あはは、ありがとね。私、ここ数年で久しぶりに外に出たから……どうにも慣れなくて」
 青年は鳥のためにしゃがみ込む。
「かわいいなあ」
 そっと手を伸ばすと、鳥は逃げずに彼の手をそのままにさせておく。
「私なんかが触ってもいいの?」
 そのまま鳥の頭を撫でてあげると、鳥は嬉しそうな鳴き声を漏らした。
「くるくる~。くるる~」
 青年の手に擦りつく鳥を感じて彼の顔は、瞬く間に本人が知らぬうちに笑顔へと変わっていた。
「あはは……!」
 しばらく撫でると、鳥はそれで満足したのか、仲間たちの元へ飛び去って行こうとする。
「あ……ありがとね!」
「くるる!」
 羽ばたいていくその姿を見て、青年は心を打たれた。
「うぅ……。私も、いつまでも落ち込んでるわけにはいかない。私も、がんばろう……」

 彼は気を取り直し、ゆっくりと立ち上がる。

 ……タタタタ……。

「?」

 するとどこからか、誰かが走ってくる音が聞こえる。

「??」

 青年がそちらの方へ振り向く。

「――!」

 瞬間。

「ちくしょうてめぇ! コイツがどうなってもいいのか!」

 青年の目の前には、怪物がいた。

『グルルルルル……』
「……え……?」

 人間ではありえない大きな口と牙、悠に青年の2倍はあるおどろおどろしい巨躯。そこから生えた剛腕が、すでに彼めがけて振り上げられていた。

「……な……」

 呆気にとられる青年に、その腕は無慈悲にも一切の容赦もなく振り下ろされる。

『ウォオオオオオオオオオ!!!』
「――……なに、が――?」

 それが青年の発せた唯一の声だった。

『――サセヌ、ッ!』

 さらに突然、破壊性あふれる怪物の拳と青年の間の“地面”から、大地を割ってまた別の拳が勢いよく昇る。

 黒々とした怪物の巨腕を易々と受け止め、地響きと共に割れた地下からもう一体、別の巨躯が轟々と現れ出でた。

「うっ! …………は?」

 勢いに呑まれ地面に倒れ込んだ青年はもはや、事態の成り行きに狼狽えることすらできずにいる。

「――おいおい、それが庶民を守る者のすることかね」
 大らかな渋い中年男性らしき声が、青年を襲おうとした怪物と、その怪物から彼を守るように競り上がってきた巨体のなにかの向こうから彼の耳に届いた。
「ち、ちくしょう! やめてくれ! うわぁああああああ! ――がっ!」
『ウォオオオオッ……!』
「え……?」
 青年は一体何が起こっているのか、訳が分からない。
 ただなにか暴行音のような音が成り響いた直後、別の男の悲鳴が上がると共に、黒々とした怪物の方が同様に叫び声を上げ、光と共に消えていく。
「よし、いっちょ上がり、っと」
『――フウ』
 怪物が光と共に消え去った後、その後ろには一人の男性が立っていた。
「危ないところだったな、巻き込んでしまってすまない」
 縄に巻かれた後の気を失った一人の男を置いて、その男性は青年に歩み寄ってきた。
「立てるか?」
「…………????」
「放心状態だな、無理もない」
『ウム……』
「え? え? ……え?」
 なにかとんでもないことに巻き込まれた青年は、目が回る想いである。
「どう話したらいいのか……」
『コチラヲ見テモ答エハ出ヌゾ、ぼらじゃ』
「そうだな……」
「……あ、あ、あの……」
「とりあえず、一旦うちに来てもらってもいいか? ……ええと、君の名前は?」
「あ……あ、」
「あ?」
「アオギリ」
「ほう」
「コウ・アオギリ、です……」
『……フ、フ。フハハ! タトエドノヨウナ形デアレ、コノ中デ正気ヲ保ッテイラレルトハ……ナカナカ器ガ大キイナ、若者ヨ』
「は、はぁ……? はい……あ、さっきは、助けて、くれた? 有難う……」
『ワハハハハ! 構ワヌ! 誠ニ天晴レダ、人ノ君ヨ!』
「あ、あ、あははは、あははははは……?」
 持ち前の人の良さが隠せず、誰とも知らぬ者に名前を明かし、異形の巨体にお礼を言い、誘われて笑えてしまった青年は。
「よし決まりだ。アルビー、この子、コウをうちに引き込む。事後処理は頼んだぞ」
『オウ』
「え? ちょっ……」
 男性と共に、光に包まれ始めた。
「怖がることはない。転移の術だ」
「え? いや……え?」
『気張レヨ、不運ナ者ヨ』
「え? え? え――っ!!!」
 そして彼の意識は光に包まれる――。



カウラーキー(kouraku)with新生クラヴァー&新生terataku
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